メディア個別 不可解さがクセになる、サスペンスマンガ『冷たい彼とのティータイム』制作秘話 | アリシー

アリシー

自分をスキになるって、意外とカンタン。
さよなら、平成。私も前に進むよ。
不可解さがクセになる、サスペンスマンガ『冷たい彼とのティータイム』制作秘話
冷たい彼とのティータイム

不可解さがクセになる、サスペンスマンガ『冷たい彼とのティータイム』制作秘話

※一部ショッキングな表現がございます。また、フィクションであり、実在の人物や団体名とは一切無関係です。

モノクロのコマに、赤がにじむ。
「私 独り言が多いんですよ」と話す女の前には、頭から血を流し、うなだれる男――。
先日、アリシーで最終回を迎えた、さわぐちけいすけさんによるサスペンスマンガ『冷たい彼とのティータイム』第1話のひとコマです。

主人公・アリスの元に正月早々やってきた男・真坂。しかし、彼はもう息をしていない。そう、彼女が殺した。殺人を犯したアリスとはどんな女性なのか、彼女の部屋にいる『モノ』たちが語り出す。
さわぐちさんの代表的作品である夫婦エッセイマンガ『妻は他人』とは大きく路線を変更し、女性向けメディアでも異例のサスペンスマンガとなっている本作品は、公開当日さまざまな論争を巻き起こしました。

最終回を迎えた今、アリシー編集長が制作秘話など作品にまつわるぶっちゃけトークを繰り広げます!

■新しい挑戦だった『冷たい彼とのティータイム』

▲左からさわぐちけいすけさん、前編集担当・ふくだ、編集長・藤田

アリシー編集長・藤田(以下藤田):ずばり、最終回までやってみてどうでしたか?

さわぐちけいすけ(以下さわぐち): 1話でこれ出しとけばよかったとか、あとからこの含みをここで使えるようにちょっと意味不明なものをここで出しておけばよかったっていうのはありますね。

藤田:伏線の置き方とかですね。

さわぐち:そうですね。でも、今回そうやって伏線らしきものを無理に作るっていうのもできたので、興味深かったですね。

藤田:「さわぐちさんってこういう作品も描くんだ!」という意見は多く見受けられた気がします。

さわぐち:やっぱり仕事を頼まれるときに多いのが、私の視点で何かを紹介してくれっていうのがほとんどなんですよね。映画を観た感想とか、商品を使った感想とか。
だから今回みたいな作品をやらせてもらえることって、新鮮でおもしろかったですね。
しかもネームを送っても編集さんからの修正点がほとんどないので、「逆に大丈夫かな?」って毎回思うぐらい自由にやらせてもらえました。

藤田:不可解なストーリーのマンガって、意味が分からないからこその読み応えがきっとあるんですよね。だから、担当編集のししゃもさんもどうなっていくのかが分からなくて、指摘しづらいのかな、というのもあったんでしょうけど。

さわぐち:今回、新たな試みをいろいろやっている中で、一番大きかったのは「分かりづらい」という点なんですね。わざと情報を少なめに不完全な感じで描いてみたいな、というのがあったので。

今まで難しい説明とか日常のよくあるストレスとかを分かりやすく説明するっていうのが人から見たときの私の売りのようなんですけど、『冷たい彼とのティータイム』では分かりやすく書けたときはわざと分かりづらく直したりとか。

藤田:いつもと逆のことをしていたんですね。他の作品で読者のモヤモヤを解決してきたさわぐちさんが、本作品では読者をモヤモヤさせる作品にしましたよね。いい意味で裏切られた作品でした。

■過激すぎてNG!? 幻の第1話のヒトコマ

▲和やかな雰囲気の中、話題は凄惨な問題のシーンに…

藤田:第1話の11コマ目は、今は壺にフォーカスされているものになっているんですけど、最初はもっと凄惨な描写だったんですよね。玄関も血まみれで。

さわぐち:そうそう、そのシーンは血しぶきの上がり方もうちでシミュレーションしたんですよ。

藤田:そうなんですか!?

さわぐち:どうしてこういう血しぶきになるのかを実験しました。アリスちゃんが右利きだから、壺のどこを持って、どういう状態で殴ったのか、とか。
左に頭をぶつけたときに血はどっちからどんな風に流れるか、でも頭から血はそんな噴き出ない……というのも考えましたね。
そんなに血が飛び散ったりはしないだろうな、って思いつつも、マンガの演出上、結構飛び散らせましたが。

藤田:でも、そのコマが問題に……。
1話掲載後に、次回からの掲載は考えさせてくださいって運営元から言われちゃって。

※以下一部ショッキングな表現がございます。

問題のシーンはこちら。まずは差し替えたコマからどうぞ

▲実際に掲載された第1話
▲差し替え前の第1話。凄惨でインパクトのあるシーンとなっている。

藤田:もちろん、上に報告はしていたんですけど、思っていた以上のものが来てびっくりしちゃったみたいなんですよね。
アリシーという日常のほわんとした感じのところを拾っているメディアが「あれ、どうした、急に……」みたいな。

さわぐち:めちゃくちゃ怯えた声で電話してきましたよね、藤田さん。

藤田:さわぐちさんが戦意喪失しちゃったらどうしようって思ったんです。でも、意外と面白がってくれて、制約がある中でできることをいろいろと模索してくださった。

さわぐち:そもそも依頼してもらっている時点で制約からスタートなので。その制約の中でどうするかって考えるほうが仕事として楽しい部分かな、と。今回は実験的なものだったから、普段より柔軟にできたと思います。

■最終回は実は違うものだった

藤田:苦労した点はたくさんあると思うんですが、一番大変だったのってなんですか?

さわぐち:アリスちゃんがコインを大事にしている理由が自分でも全然分からなくて。最初にそんなセリフ書いちゃったもんだから、なんで命よりコインのほうが大事って言ったのか理由の説明がつかなくなったんですよね。

▲第1話の1コマ。

さわぐち:描くこと自体にそんなに苦労はなかったんですけど、ひとりひとりの行動の理由が全然分からなかった。理解できないけど、キャラクターたちが勝手に進んでいく感じで気持ち悪かったですね、ずーっと。

藤田:なるほど。
今回の作品は、さわぐちさんと私、当時の編集担当で一緒にプロットを作ってラストまで決まった状態で描き始めたんですよね。
それが実際の最終回は元のプロットとは違うものになっていたわけですが。

さわぐち:最初は予定通りに描いていたのが8~9話あたりからつまんないなって自分で思っちゃいましたね。

藤田:筆が乗らなくなってしまった感じですか?

さわぐち:迷いつつも一回方向性変えたいな、と。物たちの声がそもそもアリスちゃんに聞こえている方向性に切り替えようと思ったんです。

藤田:最終回は、当初、アリスちゃんが捕まったような雰囲気で終わるっていうオチだったんですよね。パトカーが来て……。
でも、実際はアリスちゃんが上を仰ぎ見る姿で終わる。そして「やっと静かになった」と。

さわぐち:この話で最終的にみんなが知りたいこと、私が解明させたいのはアリスちゃんが真坂さんを殺すに至った動機なんですよ。なにをきっかけに殺すに至ったのかというのを描いてて。

▲第1話の最後のコマを模したような2人…!?(背景参照)

藤田:それで真坂さんも物の声が聞こえるっていう設定に変更したんですよね。

さわぐち:そう。でも、そこで殺すに至るかっていうと微妙なんですけど。ただ、アリスちゃんが持ってるモノの声が聞こえてしまうと、アリスちゃんの秘密だったり、知られたくないことが真坂さんにバレてしまうんですよ。
でもそれはあえて描かずに……。

藤田:読者の方に委ねた、と。

さわぐち:そうですね。

藤田:後半にかけて絵柄もストーリーも躍動感が出てきましたよね。どの物が喋るかによって視点もいろいろ変わりますし。
アリシーのコンセプトには「一歩踏み出し、自分らしい蝶になって羽ばたいてほしい」という願いが込められているのですが、アリスちゃんは別の意味で一歩踏み出した。受動的で弱々しかったアリスちゃんが、殺しというアクションを起こした。

さわぐち:間違った形で一歩踏み出したという前進もありかな、と。

藤田:ありだと思います! アリスちゃんにとっての自分らしい蝶がこういうことだったんだろうな、って。コンセプトには沿っているな、っていう感じはする。ちょっと悲しいけど、アリスちゃんが納得できる人生であってほしいなって思います。

■新作は書籍としては初のフィクション

▲新作『僕たちはもう帰りたい』の1ページ

藤田:ちなみに新作『僕たちはもう帰りたい』はどういう作品なんですか?

さわぐち:7人のオムニバスの話で中間管理職や、社会人2年目、3年目の人とか、いろんな立場の人の悩みのそれぞれの悩みを描いています。
それをスナック「もう帰りたい」を開いているママが解決する。ママが解決するっていうより、余計なひと言を言って、それによってちょっと行動がかわる、という話ですね。

藤田:そのスナックいいですね。実際にありそう。

さわぐち:解決案をビシッと言うんじゃなくて、ママはよくわかんないことを言うんですよ。それをきっかけに考えをちょっと変えてみたり。全部が解決するわけでもないのがリアルでいいかな、とは思っています。

藤田:今後、さわぐちさんはどんなふうに展開されていくんでしょうか?

さわぐち:フィクションの話を増やしていきたいですね。描いて、勉強もして。
『僕たちはもう帰りたい』もそうですが、別の出版社からも具体的に話を進めていますし。最終的には自分が描きたいものを描いて、できるだけ売れない本を作りたいな、と。売れる本とは別に自分の好きなものだけを描いた、クオリティだけが高いやつを描きたいなあっていうのが理想です。

最後に。現編集担当はこう読んだ

「できるだけ分かりづらくした」とさわぐちさんが語る『冷たい彼とのティータイム』。それだけに、読む人によって解釈も変わってきますが、現編集担当の伊東ししゃもはどのように読んだのでしょうか。以下の伊東の考察も合わせて、ぜひ作品を読み直してみてください。

伊東:『コインの謎、モノの声が聞こえるアリス、どうして真坂信二は死ななければならなかったのか。両手で足りないくらい読み直しても、頭の中でさまざまな解釈が膨らみます。それほどに面白い作品でした。

第三話で『皆の言いなりだ』と言われていましたが、アリスはきっとずっとモノの声を聞いて、それを信じて生きてきたんだと思います。特に彼女が大切にしていたコインは、人に嘯いて騙して、破滅させてきたモノ。そのコインを真坂が踏みつけてみせた行為には、モノの言いなりにならない生き方を体現しているようでした。アリスはそれを目の当たりにして、何を感じたのか。目の前に居るその人を殺してしまう衝動に至るほどに。

解釈は三者三様だと思います。私も未だに解らないことがたくさんあります。
それでも一つ思うのは、これがBad Endではなく、モノの言いなりにならない道をどうにか歩いていけたらな、と。未来のアリスが、どうか幸せになる道がありますように。物語の終わりに、そう思います。

(ふくだりょうこ+編集/藤田佳奈美)