メディア個別 「いいひと」を卒業した人のはなし/Dr.ゆうすけ #卒業コラム | アリシー

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自分をスキになるって、意外とカンタン。
さよなら、平成。私も前に進むよ。
「いいひと」を卒業した人のはなし/Dr.ゆうすけ #卒業コラム
想いを文字にしてみる。

「いいひと」を卒業した人のはなし/Dr.ゆうすけ #卒業コラム

アリシーの3月特集は「想いを文字にしてみる」。3月11日の“コラムの日”にちなんで、人気作家やコラムニストなど様々な方々に“卒業”をテーマとしたコラムを依頼。noteマガジンを連載中の内科医・Dr.ゆうすけさんにも寄稿いただきました。

■「完璧な所作で」サラダを取り分ける女性

僕は都内で内科をやっている医師。
体の不調だけでなく、心のことや人生について聴く。
僕はそれをのをライフワークにしている。


この間久しぶりに、くだけた宴席があった。
ぼくの目の前に座った初対面のその人は、見るからに「気くばり上手」な女性だった。

あたりまえのようにサラダを人数分の小皿に取り分け、グラスが空いた瞬間にオーダーを取ってくれたりしてくれる。その所作はいかにも、「身に染み付いてる」という感じだ。

「すごいなぁ」と感心する一方で、どれだけ気を使ってセンサーを張り巡らせているのだろうか、と気になった。周りの期待を察知し、先回りできる有能さ。きっとみんなから好かれているだろうし、仕事もできるんだろう。彼女の振る舞いを見ながら、これまで診察室で出会ったきた、その女性と「よく似た雰囲気の人たち」のことを思いだしていた。

優しくて、がんばる人は、こわれやすい。
全方位的に気を配り、みんなから嫌われぬよう精一杯振る舞ってきた人たちが限界に達したときの苦しみを、僕は診察室の中で数多く見てきた。みんなきっと優秀で、仕事ができる人たちだったんだろうな、と思う人達ばかりだった。

むしろ、優秀であるからこそ、たいがいの困難を自力で解決してきてしまったがために、誰かに本気でヘルプを求めることが今まで一度もないような人もいた。

■優しくて、がんばる人は、こわれやすい。

期待に応え続けるために、どこまでも笑顔で走り続ける。
自分の限界を大きく超えた状態事態になってが起こっても、他人からの評価や、積み上げてきた信頼をが失うわれるのが怖くて、自分のことを常に後回しにして、気がついたらもう動けない……状態になっている。
その姿は、「ブレーキのないスーパーカー」のようなものだ。
ぶつかるまで、止まることができない。

ぼくの大好きな、「ちひろさん」(安田弘之氏)というマンガの中で、印象的なセリフがある。

吐くべき愚痴も
言っていい “助けて” も言わないで
笑顔のまま 静かに壊れていった
優しくて 強い人達を
私、何人も見てきたから”

そう。
優しくて、がんばる人は、こわれやすいのだ。

期待に応えて褒められるのは、すごく嬉しいよね。
それができなくて信頼を失うのは、すごく怖いよね。

でも、能力や成果だけを見てあなたを大事にする人は、あなたが頑張れそれができなくなった瞬間に、きっと離れていく。

そういう人たちは、あなたの人生にとって本当に大事な人なのかな。
「褒められるわたし」「がんばるわたし」でいなくても、あなたの元から離れないでいてくれる人って、誰もいないのかな。

あなたがいま本当に必要としているのは、そういう人なんじゃないかな。

この間診察室で、サラダを取り分けてくれた女性と似た雰囲気をもった素敵な人に、そんな話をした。

期待に応え続ける「わたし」を、成り立たせることは難しい。
若さも、有能さも、体力も、気力も、いつかは衰える。

磨き上げてきた「必勝パターン」が通用しなくなるときが、いつか必ず来る。
そういうときに、どういう「わたし」で世の中と通じていくのか。

この手のクライシスをきっかけに、「誰かのために過剰にがんばる自分」をやめて、幸福度を上げる生き方にギアチェンジする人は少なくない。

「ぴかぴかに磨いた部分」だけで誰かと接していても、心から安心するつながりはなかなか得られない。
欠損を認めあい、慈しみあえるようなつながりを得ようとするとき、人はいい意味で力が抜けていく。

では、気を使いすぎる自分をやめたいと思ったとき、どうすれば良いのか。
ある女性が教えてくれたのは、「正直のレベルをあげてみる」ということ。

彼女も相手の気分を害するのが嫌で、言えないことばかりだったんだけど、本当に傷ついたときや、自分の中でちょっと違うと思ったときに、信頼している相手に正直に伝えてみる努力をしはじめた。

小さなトライを積み重ねて、少しずつ正直になるのが上手になっていった。そうやって気づいたのは、「真摯に、切実に言ったことならば、結構相手に伝わる」ということだった。
逆に、真摯に伝えようとした本音を否定されたときには、それは「合わない人」ってことでいいんだと、思えるようになった。

「最初は合わない人がいるってことを認めるのに抵抗があったんですけど、すべての人に好かれることをやめたら、どんどんラクになれました」と教えてくれた。

そうそう。合わない人を背負わないと決めたら、合う人をより大事にできる。
交友関係は狭くなるけど、幸福度は上がる。

「最近は気が抜けて、朝寝坊が増えちゃいました」
はにかみながらそう話してくれた彼女の笑顔から、前と比べて「圧」のようなものがなくなってきたように見える。


あ、この人は、本来こうやって笑う人なんだな。こっちのほうが断然いいな、と僕は思った。


笑顔は嘘をつかないのだ。

(Dr.ゆうすけ+アリシー編集部)