秋の夜長にゆっくり楽しみたいファンタジーマンガ3選

秋の夜長にゆっくり楽しみたいファンタジーマンガ3選

マンガでファンタジーの世界を旅しよう
秋の夜長には、じっくり時間をかけて味わう楽しみを持ちたいもの。特に月がキレイで静かな夜には、思わず不思議な世界に迷いこんでみたくなりませんか? 今月は、そんな夜にぴったりなファンタジーマンガ3作品を紹介します。

■『黒薔薇アリス』(水城せとな/秋田書店)6巻(未完)

月が美しい夜に読んだら一層ムードが盛り上がるような本作。美しい少女アリスが、彼女を取り囲む美青年ヴァンパイアたちの中から、ヴァンパイアの後継者を残すため「繁殖」すべく一人を選ぶ宿命を描いた物語です。物語はアリスとアリスに宿命を背負わせたヴァンパイアのディミトリを中心に展開します。アリスを含めた登場人物たちはそれぞれの過去に由来する傷を心に抱えながら、自らの宿命と向き合い、葛藤します。ヴァンパイアという架空の存在がリアルに感じられる緻密な設定と繊細な心理描写が素晴らしく、ヴァンパイアたちの悲哀に思わず胸を締め付けられます。重厚なストーリーもさることながら、文句なしに美しく描かれるヴァンパイアたちを見ているだけでも、心がときめきます。アリスのロリータファッションもとってもかわいいので注目してみてください。

■『宝石の国』(市川春子/講談社)4巻(未完)

作者の頭の中は一体どうなってるんだろう……と思わずにはいられない、圧倒的で唯一無二の世界観。舞台はかつて「にんげん」がいた世界。主人公を含む28人の宝石たちは、自分たちを宝飾品として狩りにくる月人(つきじん)と戦い続けます。宝石たちは人の形をしていて、人のようにそれぞれ性格が違い、おしゃべりもするし、ケンカもします。宝石たちのたわいのない日常と軽妙なやりとりを楽しむ読者は、突然の月人の登場でガツンと衝撃を受けることになります。月人に狙われた宝石たちは体の一部を奪われ、「パキン」という音とともに手がもげ、足がもげ……。背景と登場人物が曖昧に描かれる独特の画風は、慣れるまでは読みにくいと感じるかもしれませんが、絵から情報を読み解こうとするのではなく、この危うくて美しい宝石の国にふわふわ身をゆだねながらどっぷり浸かることをおすすめします。

■『夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない』(宮崎夏次系/講談社)全1巻

手元に置いて何度も読み返したくなるような珠玉の短編集。描かれるのはどこにでもあるような日常。でも、ちょっとだけ「普通じゃない」世界。例えば、整形手術を繰り返した母親の顔が星形だったり、ある日突然家族が犬のような振る舞いを始めてしまったり……。そんな滑稽な世界で描かれるのは、誰もが本当は知っているのに見過ごしていることや、見過ごしていることに気付かぬふりをしているような大事なこと。短いお話の端々に自分の心を覗かれたような、ドキっとする瞬間があります。作中に出てくる人物たちは見てられないくらいヒリヒリしていて、読んでいると少し辛くなりますが、全編を通じて感じる「それでいいんだよ」という肯定感によって、読後は心がじんわり温かくなります。イラスト調のポップで平面的な絵とリズミカルで大胆な構図は、普段あまりマンガを読まない人や、アートや音楽への興味が深い人にとっても新鮮な魅力を感じられるでしょう。マンガという表現媒体の可能性を感じさせてくれる名作です。

さあ、気になる世界は見つかったでしょうか? 秋の夜長はふわふわとファンタジーの世界にトリップしてみては?


(岩崎由美/マンガナイト+ノオト)

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